
FinOpsの効果はチーム全員で動いて初めて生まれる。クラウドコストとの向き合い方を組織レベルで変えるために、何ができるのかをご紹介します。
FinOpsはクラウド業界に大きな波を起こし、部門横断のチームがクラウド支出の捉え方や社内コミュニケーション、ビジネス判断の進め方を見直すきっかけとなっています。
ただしFinOpsは、ベストプラクティス集やタスクのチェックリストというよりも、文化そのものの転換です。コストを気にかけるのは結局のところ一部の担当者か、専任のFinOpsチームに限られがちで、それ以外のステークホルダーをいかに巻き込むかが最大の課題になります。
実際、FinOps Foundationの調査では、FinOps実践者が直面する課題のトップが「エンジニアが行動を起こせる仕組みづくり」、3位が「組織全体への浸透」となっています。
つまり、FinOpsの導入には多くの人がクラウドコストとの向き合い方を変える必要があるため、忙しい組織にとってはハードルが高くなりがちなのです。
出典:State of FinOps 2023 by FinOps Foundation
とはいえ、ステークホルダーの「FinOps筋」を少しずつ鍛え、協力的な姿勢と自身のクラウド利用へのオーナーシップを育てる方法はあります。
本記事では、架空のEngineering Lead「Alex」を例に、FinOps成熟度の高いお客様がDoiT Cloud Intelligence™やFinOpsトレーニングをどのように活用しているかをご紹介し、同僚をFinOps導入へと自然に促すヒントをお伝えします。
ステークホルダーが意識すべきクラウドコストを定義する
FinOps Foundationのレポート「The State of FinOps 2023」によれば、FinOps文化を根づかせる取り組みとして最も多く実践されているのがクラウドコストの可視化と透明性の確保です。リソースのタグ付け/ラベル付けが済んでいる前提で、ステークホルダー向けにコストを可視化する第一歩は、彼らが意識すべきコストの範囲を定義することです。
Engineering Leadであれば、自分が担当する製品やアプリケーションの運用コストがそれにあたります。DoiTのお客様はAttributionsを使い、ステークホルダーごとに関心領域となるコストカテゴリを定義しています。Attributionsは、クラウドリソースをグループ化することで、製品やチームなど組織独自のカテゴリにクラウドコストを紐づけられる機能です。
Engineering LeadのAlexは、自社のビジネスインテリジェンス(BI)アプリケーションの管理を任されています。コストを深く把握するため、AlexはBIアプリケーションが使うクラウドリソースをAttributionでまとめます。下の例では、「team」ラベルまたはプロジェクトラベルの値が「BI Application」となっているリソースを、BI Applicationのコストとして定義しています。
このようにAttributionsを使えば、BIアプリケーションに紐づくクラウドリソースをひとまとめにできます。下の例では、「team」ラベルまたはプロジェクトラベルの値が「BI Application」となっているリソースを、BI Applicationのコストとして定義しています。
DoiT Cloud IntelligenceでAttributionsを使ってリソースをグループ化し「BI Application」を定義する
こうしたカテゴリの切り方は企業によってさまざまです。たとえば1つの製品を、単一のAWS Account / GCP Projectで定義する場合もあれば、特定のタグ/ラベル値、あるいはそれらの組み合わせで定義する場合もあります。
クラウドコストの可視性を高める
Attributionsを作成したら、ステークホルダーが自分の業務に関わるコストを掘り下げられるレポートを構築できます。
下の例では、BI Applicationのコストをサービス別に分解し、最大のコストドライバーを特定しています。
DoiT Cloud IntelligenceでBI Applicationのコストをサービス別に分解
さらに、レポートに期間ごとのサービスコスト変動率(%)を表示するように設定すれば、BI Applicationの支出に大きく影響する変化をより的確につかめます。
DoiT Cloud Intelligenceのヒートマップでサービスコストの変動率が大きい箇所を強調表示
クラウド利用レポートを自動化する
FinOps導入の初期段階では、ステークホルダーが新しいツールを学ぶことすら気が進まず、ましてやクラウドコスト分析レポートを自分で作るところまで動いてくれないことも少なくありません。
そんなときは、こちら側でレポートを用意し、定期配信されるようスケジュール設定するのが効果的です。新しいツールの習得をいきなり求めるのではなく、ステークホルダーが自分のペースでクラウドコストを意識できる環境を整えられます。
今回のケースでは、Engineering Leadだけでなく、配下のエンジニアもこの定期レポートの配信先に加えるとよいでしょう。
DoiT Cloud Intelligenceでクラウドコストレポートの配信を自動化
独自カテゴリでクラウドコストを切り分ける
Engineering Leadは、すべてのアプリケーション間でのコスト按分にはそれほど興味がないかもしれません。それでも、自分のアプリケーションのコストを環境別など別のカスタムカテゴリで分解したい場面はあります。
そんなときに役立つのがAttribution Groupsです。共通のAttributionsをまとめ、その間でコスト配分が行えます。下の図は、Engineering LeadのBI Applicationを含む3つのアプリケーションをまとめたAttribution Groupの例です。同様に、環境別コスト用のグループも作成しています。
DoiT Cloud Intelligenceで全アプリケーションをまとめ、未配分のコストを洗い出す
Attribution Groupsを作っておけば、レポート上であるグループのコストを別のグループ単位で分解できます。下の図では、BI Applicationのコストを環境別(こちらもAttributionsで定義)に分解しています。
DoiT Cloud IntelligenceでBI Applicationのコストを環境別に分解
Budgetsで支出予測の精度を高める
ステークホルダーがクラウド請求のうち自分の担当分を把握できるようになったら、次は期間ごとのコスト動向への理解を深めるステップです。
DoiTのお客様の多くは、DoiT Cloud IntelligenceでBudgetsを作成し、ステークホルダー向けのアラートを自動化しています。これは単なる予実管理のためだけではありません。
Budgetsを_「次の[期間]では_______を支出する見込み」_という仮説検証のフレームワークとして使っているのです。予算を超過すれば、ステークホルダーとチームの間で自然に対話が生まれます。
たとえば、超過の原因が予算の見積もり甘さなのか、特定サービスでの正当な支出増だったのかを切り分ける、といった具合です。
この検証を繰り返すことで、ステークホルダーも(そしてあなたも)クラウドコストへの理解を深め、コストの予測精度を着実に高めていけます。
DoiT Cloud Intelligenceでクラウドコスト予算を組み立てる
「BI Application」を定義する際に使ったAttributionsは、予算が監視するコスト範囲を決めるスコープとして機能します。
下の図では、BI Application担当のEngineering Lead向けに月次予算を作成しています。
ここでできることは次のとおりです:
- 予算額を設定(参考として前月のBI Applicationコストも確認可能)
- [任意] 予算を継続的に調整
- 前期間の支出をもとに予算額を自動算出
- 成長率を予算に組み込む
- 予算アラートの送信先を指定
- 関連するSlackチャンネルへ予算アラートを送信
- ステークホルダーに通知する予算しきい値を設定
- 現在および予測支出を予算額と比較表示
- 予算対象のAttribution(s)について過去の支出推移を表示
DoiT Cloud Intelligenceでクラウドコスト予算を組み立てる方法
しきい値を超えると、Engineering Leadには次のような情報を含むメール(およびSlackメッセージ)が届きます:
DoiT Cloud Intelligenceから自動送信される予算アラートの例
しきい値超過の原因をその場で深掘りすることもできます。
たとえば月初から5日で50%のしきい値を超えていれば、何か想定外のことが起きていると考えるべきでしょう。
Budgets画面(またはBudgetsのSlackアラート)から、ステークホルダーはワンクリックで設定済みレポートを生成し、Attributionのコストをサービス別に分解して原因を突き止められます。
下の例では、月初にCloud Storageのコストが急増していることが一目でわかります。
DoiT Cloud Intelligenceで予算しきい値の早期超過の原因を調査
ステークホルダー向けにきめ細かなコストアラートを設定する
Budgetsは、しきい値が絶対値(例:支出額)で、対象が単一の項目(例:BI Application)である場合に効果を発揮します。
一方で、同じ次元のインスタンスを個別に評価したい場合(例:K8sクラスターごと)や、特定の期間(例:週次)の変動率(%)でアラートを出したい場合には不向きです。
たとえば「いずれかのK8sクラスターで月次支出が15%超増加したら知りたい」というニーズを考えてみてください。通常はクラスターごとに予算を設定し、前週比15%増にあたる金額を手入力し、さらにその予算額を更新し続けなければなりません。これは現実的ではありません。
こうした、よりきめ細かな粒度でステークホルダーに利用状況を意識してもらいたい場面では、DoiTのお客様はAlertsを活用しています。
例:任意のリソースで前週比25%増を監視する
たとえば、BI Applicationに紐づく任意のリソース(S3バケットなど)が前週比25%以上増加した時点で、Engineering Leadへ通知したいとします。これにより、想定外のコンピュートコスト急増を早い段階でキャッチできます。
下の例では、次の手順で実現しています:
- 作成済みのAttributionを使い、アラートの対象範囲をBI Applicationのコストに絞る
- 増加率25%を監視するようアラートを設定
- 「Evaluate for each」のドロップダウンで「Resource」を選び、リソース単位で監視
BI Applicationが利用するVMで、前週比25%超のコスト増加を監視するアラートを設定
あとは通知先のメールアドレスを入力するだけ。Engineering Lead単独でも、チーム全員でも自由に設定できます。
DoiT Cloud Intelligenceでコストアラートを設定
コストの急増を雪だるま化する前にキャッチする
クラウドは動く要素が多く、すべてに目を行き届かせるのは至難の業です。AlertsやBudgetsでは拾いきれない死角を埋めてくれるのが、Anomaly Detectionです。
Anomaly Detectionは、組織にとっての「通常の支出パターン」をアカウント/プロジェクト別、サービス別に自動で学習し、異常な支出が発生した際に通知します。
DoiT Cloud Intelligenceで検知したクラウドコスト異常の例
とはいえ、個々のステークホルダーは、組織全体やときには特定のプロジェクト/アカウント単位の異常にもあまり関心がないかもしれません。
その点、Anomaly DetectionはAttribution単位でも有効化できます。これにより、BI Applicationのスコープに絞って異常を検知し、発見時にEngineering Leadへ通知できます。
DoiT Cloud Intelligenceでカスタムコストカテゴリの異常検知を有効化する方法
クラウド支出全体で見れば異常と判定されないコスト増でも、BI Applicationだけを切り出せば異常として検知される、というケースもあります。
ステークホルダー自身がコスト急増を早期に把握できれば、原因や影響範囲の特定に費やす時間が減り、チームと「なぜ起きたのか」「再発をどう防ぐか」を議論する時間に振り向けられます。何より、コストに対する当事者意識が確実に高まっていきます。
日次ダイジェストでステークホルダーのコスト感度を養う
日々の支出状況を把握する手段として、DoiTのお客様の多くのFinOpsリーダーは、ステークホルダーにクラウド請求のうち担当分のDaily Digestsを購読してもらっています。
Daily Digestsでは、Attributionの支出について前日比、前月比、月初からの累計といった文脈をひと目で確認できます。
下の例では、Engineering LeadをBI ApplicationのDaily Digestsに登録することで、急増や予算しきい値超過がない日でも、日々のコスト感覚を保てるようにしています。
DoiT Cloud Intelligenceから配信されるDaily Digestレポートの例
FinOpsトレーニング活動
とはいえ、テクノロジーだけで組織のFinOps導入が進むわけではありません。教育活動やリソースと組み合わせて初めて、本来の効果を発揮します。
そこでDoiTのお客様は、個別・グループの両方の活動を通じて組織にFinOpsの原則を根づかせるサポートをするFinOpsスペシャリストをご利用いただけます。
1対1のFinOpsアドバイザリー
個別支援では、FinOpsスペシャリストがコストの理解と配分、予測の精度向上、commitment-basedや商用割引の最適化、エンジニアのコスト最適化への動機づけといった、FinOpsの主要ケイパビリティの定着をお手伝いします。
コストの可視化と配分
クラウド請求の読み解きに苦戦している場合は、お客様に合わせたコストレポートを設計し、ご本人だけでなくステークホルダーの意識も引き上げ、ユニットコストの理解を組織で揃えるところまで伴走します。
具体的には次のような取り組みです:
- セルフサービスレポートの導入と、適切な相手・適切なチャネル・適切なタイミングでの配信設計
- 支出トレンドを全体・個別の両面でモニタリング
- コストや利用の異常を、その利用に責任を持つグループへ可視化
- ステークホルダーグループ向けに精度の高い予算を構築
いずれも、ステークホルダーグループにコストへの当事者意識を育てるための施策です。
さらに、これらのタスクを自動化する支援も可能です。一度仕組みを整えれば、継続的に機能し続けます。
実際、FinOps Foundationの「State of FinOps 2023」レポートによれば、2023年にFinOps実践者が自動化を計画している領域として、異常アラートと予算アラートがそれぞれ1位と2位にランクインしています。
出典:State of FinOps 2023 by FinOps Foundation
commitment-basedおよび商用割引によるレート最適化
多くのお客様は、Flexsaveのような自動節約プロダクトでオンデマンドコンピュート支出をすべてカバーしています。一方で、自社で3年CUDsやSavings Plansを購入し、残った分をFlexsaveでカバーしたい、という企業もあります。
そうした場合は、FinOpsスペシャリストがお客様のチームと一緒に、長期の事業計画を実態に即した3年commitmentに落とし込むサポートを行い、commitment-based割引による節約効果を最大化しつつ、稼働率不足のリスクを抑えます。
また、EDPやクラウドcommitmentの締結交渉では、提示された条件が本当に妥当なのか、想定利用量に基づき特定SKUでさらなる割引を引き出せるのか、判断に迷う場面もあります。クラウドプロバイダーとのcommitment交渉で何百社ものお客様を最良の条件へ導いてきたDoiTの知見を、ぜひご活用ください。
ゲーミフィケーション
FinOpsは文化の捉え直しであり、組織行動の変化を伴うことが多いため、ゲーミフィケーション施策はステークホルダーのモチベーション喚起と全社浸透の加速に効果を発揮します。
FinOpsにゲーム的な要素をどう取り入れるか?多くの企業がリーダーボードを設置していますが、必ずしも「最も節約したチームや個人」を競わせる形ではありません。節約額のランキングは、かえって望ましくない結果を招くことがあるためです。たとえば、最適化によって最大のインパクトが見込めるアプローチではなく、最も非効率なやり方を優先するインセンティブが働いてしまう可能性があります。
このプロセスでは、FinOpsの**"責任追及をしない文化(blameless culture)"**のアプローチが極めて重要です。組織によっては、"最初から正しく作らなかった"とエンジニアを責めたり、他より"優れている"と称賛したりする文化が残っていることもあります。
これは健全とは言えず、ゴール達成力を損ない、協働を阻害します。むしろ有効なのは、内部告発や問題発見を称える仕組みを設けることです。これによって、これまで見過ごされていた領域にゲーミフィケーションとフォーカスを向けられます。目的はビジネス固有の非効率を減らすことであり、その内容はかなり個別性の高いものになることもあります。
うまく機能するゲーミフィケーション施策には共通点があります。企業文化に合っていること、そして最も問題のある課題を解決し最大のインパクトを生むターゲットにインセンティブを置いていることです。最適化を仕組み化したチームを称え、取り組んだ施策の重みに応じて称賛や"ポイント"を付与するとよいでしょう。
ゲーミフィケーションの対象になりうる活動の例:
- タグ付けコンプライアンス(タグ付け済みリソース割合の向上)
- 予算超過額の削減
- クラウドコスト異常の解決時間の短縮
- リザベーションカバレッジの改善
- 移行や商用commitment締結前の利用最適化
ゲーミフィケーションには報酬や表彰の要素もつきものです。発想を自由に広げつつ、企業文化との相性も忘れずに考慮しましょう。既存のインセンティブプロダクトを活用するのも一手です(DoiTではBonuslyを使っています)。節約分でカンファレンスのチケット代やチームパーティーの費用を賄っているチームもあります。
グループ向けFinOpsトレーニング
DoiTのFinOpsスペシャリストは、複数週にわたるFinOps Bootcampを開催し、お客様グループにFinOpsの主要な概念とツールを体系的にお伝えします。狙いは、FinOps導入カーブのどこに位置しているかを把握し、目標達成に向けた個別プランを描き、包括的なFinOps戦略の土台を築くことです。
こうしたグループトレーニングは、似た立場のお客様同士が学び合う場にもなります。すでに試した施策、効果のあった戦術、直面した課題などを共有できます。

FinOps導入はチーム戦
FinOpsの効果は、文化として根づいたときに初めて生まれるコミュニケーションと協働があってこそ発揮されます。
ステークホルダーは、可視化のための新しいツールをすぐに使い始めてくれるとは限りません。だからこそ、彼らのフィールドに歩み寄ることが大切です。
DoiTのお客様の中でも特にFinOps成熟度の高い企業の多くは、DoiT Cloud Intelligenceを使ってコスト意識と協働を後押ししています。新しいツールの習得を強いずに、価値ある文脈を届けられるからです。やがてステークホルダーは自身のコストへの理解を深め、当事者意識を持つようになります。
DoiTをまだご利用でない方は、こちらからお問い合わせください。DoiT Cloud IntelligenceとFinOpsスペシャリストを活用し、組織のFinOps導入を加速させる方法をご案内します。