希少なテック人材の獲得競争では、報酬こそ最強の武器に見えますが、話はそう単純ではありません。

希少なテック人材の獲得競争では、報酬こそ最強の武器に見えますが、話はそう単純ではありません。優秀なエンジニアであれば誰しも納得のいく給与と福利厚生を求めますし、提示する条件が魅力的であるほどキー人材を惹きつけやすくなるのは事実です。しかし、採用活動で破格の金銭的待遇だけを武器にするのは、底なしの消耗戦への入口にほかなりません。高額な給与の目新しさはすぐに薄れ、企業はキー人材の流出を防ぐために、さらに報酬を積み増し続けるしかなくなってしまいます。
トップ人材を引き留め、育てるには、もう少し丁寧なアプローチが必要です。志を同じくする仲間と意義のある仕事に取り組み、その貢献がきちんと評価される——そんな場をつくることが欠かせません。従業員は自分の仕事に目的(パーパス)を見出す必要があり、それが見出せなければ別の場所を探しに行ってしまいます。目的を持って生き、働くことの大切さは、コロナ禍を経てさらに重みを増しました。多くの人にとってパンデミックは立ち止まり、自分の人生を見つめ直すきっかけとなり、「いまの仕事は思っていたほど意義あるものではなかった」と気づいた人たちは、すでに行動を起こし始めています。とはいえ、その「行動」が他社への転職という形にならないよう、企業として打てる手はあります。
本記事では、開発者が「ここを離れたくない」と感じる会社になるために何が必要かを掘り下げていきます。
本物の柔軟性を提供する
採用したいタイプの人材とは、創造性と柔軟性を発揮する自由を与えられたときにこそ最大の力を発揮する人々です。立ちはだかる無駄な手続きを減らし、開発者(そしてすべての従業員)が生産的に働ける環境を、できる限り整えていきましょう。
その第一歩は、働き方を本人に選ばせることです。給与を別にすれば、柔軟性こそ、開発者が現職に留まるか去るかを左右する最大の要因です。リモートワークやフレックスタイム制を導入しましょう。仕事と、人生でこなすべきこと・楽しみたいことのあいだの、あの絶妙なバランスがとりやすくなります。
時間の使い方は本人に委ね、最も生産性が高まる時間帯にベストな仕事ができるよう、自分でスケジュールを設計できるようにしましょう。
ただし、コントロールを従業員に渡すだけでは不十分です。長年、定時(あるいはそれ以上)の勤務に慣れてきた人は、在宅勤務になっても柔軟なスケジュールのメリットを自然には活用しません。在宅勤務の利点を引き出すためのメンタリングやガイダンスが欠かせません。
たとえばよく晴れた冬の日に、ちょっと散歩してきたら、と声をかけてみるのはどうでしょう。仕事は夕方以降に片付ければよいのです。在宅勤務の価値は、通勤時間や仕事着代の節約だけにとどまりません。ただし自社における「責任ある柔軟性」とはどういうものかを、従業員に明確に示す必要があります。
この柔軟性は、業務に使う機材の選択にも広げましょう。DoiT では全社員がリモートで働いており、生産的な作業環境をつくるために必要な機材を本人が選び購入できるよう、会社として予算を用意しています。
注意したいのは、自由を完全に放任すると、人は孤立感を抱き始めるという点です。だからこそ、「対応可能な時間」「同期(コミュニケーション)」「オフへの切り替え」に関するガイドラインで、ある程度の枠組みを示す必要があります。
対応可能な時間
「いつ誰が対応可能か」のベースラインを、チーム内で共有しましょう。勤務時間が柔軟であっても、誰がいつオンラインなのかは全員が把握しておくべきです。そうすれば、対応可能な人にヘルプを求めたり、集中している人やオフ時間の人を尊重したりできます。
このプロセスでは、チームを小さく保つことが鍵です。少人数のチームならメンバー同士のスケジュールが自然に頭に入り、互いに尊重し合うようになります。利用しているメッセージングアプリ(Slack など)で絵文字や視覚的なステータスのルールを決めておくのも有効で、誰が忙しく誰が手すきかが一目でわかります。
同期(コミュニケーション)
オフィスで自然に生まれる社交的なやり取りは、リモートワークではそのままでは機能しません。情報が口伝えに広がることはほとんどなく、給湯室の雑談も発生しません。しかし、コミュニケーションはリモートワーク成功の要であり、企業側が意図的に促す必要があります。
- Donut のようなツールを使い、ちょっとした雑談やバーチャルコーヒーチャットを設定する。
- 各マネージャーに、突発的な質問に応じる「オフィスアワー」を設けてもらう。
- 全社ミーティングなど重要なイベントは録画する。特にチームがグローバルに分散している場合は必須です。「自分だけ情報から取り残されている」と感じる人を出してはいけません。
オフへの切り替え
フレックス制のグローバル企業でリモートワークをしていると、世界のどこかで常に何かが動いているため、従業員もつねに仕事につながった状態になりがちです。オフに切り替えるためのルールを定め、自ら手本を示しましょう。
あなた自身が業務時間外に最も集中できるタイプで、深夜 3 時や日曜にもメンバーが質問に返信していることに気づいたら、「対応は業務時間内だけで構わない」とはっきり伝えましょう。あなたが時間外に連絡したからといって、リアルタイムの返信を期待しているわけではないのです。スピード感のあるテック組織だからこそ、燃え尽きの防止に意識を向けるべきです。
マネジメントスタイルを変える
一定のリモートワークすら認めない企業は、もはやトップクラスのテック人材を巡る競争に加われません。一方で、リモート化によってチームへの統率が効かなくなることを懸念するマネージャーもいます。そうしたマネージャーは、マイクロマネジメントの癖を手放す必要があります。
メンバーは仕事をやり遂げると信じ、就業時間ではなく成果で評価しましょう。これは「丸投げ」を意味するものではなく、上司と部下のパワーバランスを繊細にマネジメントするということです。
絶え間なく状況を確認してメンバーの集中を妨げるのではなく、業務スケジュールを合意したうえで、進捗を話し合う 1on1 やチームミーティングを定期的に確保しましょう。「上司が自分を信頼していない」と感じれば、人が防衛的になったり、やる気を失ったりするのは当然のことです。性善説に立つとは、計画どおりにいかないときに不満をぶつけるのではなく、手助けを差し出すということです。
マネージャーの役割は、自社のミッション(Just Cause)と、メンバーが仕事から得るパーパスを重ね合わせることにあります。「自分たちの組織は、メンバーが目標を追求し、信念を表現するのにふさわしい場所だ」と示すことで、ロイヤルティを獲得し、本物の充実感を生み出せます。メンバーは仕事のなかに目的を見出す機会をさらに探そうとし、その機会は会社のミッションとも重なりやすくなります。こうして_チーム_が創造的になっていくのです。
そのロイヤルティは、メンバーが「こんな初歩的な質問は恥ずかしい」と思わず気軽に尋ねられる信頼関係を築くことから生まれます。誤った前提のまま突き進むのではなく、新しいアプローチを試してみる。たとえ失敗してもネガティブな結果にはならないと安心できる——リーダーが同じゴールを共有しているからです。
個人が成長できる環境を育てる
開発者は本来、好奇心が強く、もっと学びたいという欲求に突き動かされている存在です。彼らが知識を深めることを後押しする職場環境をつくりましょう。具体的には、相談しやすく頼れるメンターを身近に用意すること、そして専門性を高め、関心を保ち続けられるよう、その分野の最新技術にアクセスできるようにすることです。
実験のための時間を割り当てることをためらわないでください。労働時間の 20%、ときには 30% を、本人が選んだ業務関連の自由活動に充ててもらう(そして実際に運用する)ことは、革新的なプロジェクトや、クリエイティブなプロダクトのピボット、長年放置されてきた厄介なバグの修正の温床になります。
このアプローチは、自走できる独学型の人材にはよく機能しますが、それ以外のメンバーには継続的なトレーニングやメンタリングの機会が役立ちます。新しい資格やスキルを習得したときには、社内のコミュニケーションチャネルでその達成を称え、努力とコミットメントをきちんと認めましょう。
こうした努力やコミットメントは、明確に定義されたキャリアロードマップにもつながるべきです。開発者は、組織のなかでどこを目指せるのか、そこに到達するために何をすべきか、各レベルに到達するまでにどのくらいかかりそうかを知る必要があります。マネージャーは昇進を望む開発者と選択肢を話し合い、進むルートを合意し、進捗を確認するための定期的なチェックインを設定すべきです。
「自分は熟達に向かって前進している」と開発者が実感できる空気を醸成することで、現役のメンバーにとっても、応募を検討している候補者にとっても、職場の魅力は高まります。
長期的なゴールを認め、投資することは、新しい技術の学習を促す以上の意味を持ちます。リーダーシップやプレゼンテーション、テクニカルライティングといったソフトスキルのトレーニングを能動的に提供することで、メンバーの実力は次のステージへと引き上げられます。
チームを築く
個人を育てるだけでなく、職場環境は強いチームも育むべきものです。ロイヤルティは強力な接着剤です。互いを支え合う、価値観を共有した小さく結束の固いグループに自分は属している——開発者がそう感じられれば、外に機会を探しに行く可能性は格段に下がります。さらに、メンバーが自分のネットワークでポジティブな体験を発信してくれるようになり、潜在的な候補者へのリーチも自然と広がります。
すべてを仕事に振り向ける必要もありません。純粋に楽しむためのアクティビティに使う時間と予算も用意しましょう。通勤やオフィス費用で浮いた時間とリソースは、皆が同じ場所に集まり、一緒に働き、食事をするチームビルディングの日に再投資してください。生産性という意味では最も高い日ではないかもしれませんが、結束したチームのコラボレーションが格段に深まるという形で、投資はしっかり回収されます。集まってつながる機会を提供することで、メンバー同士の絆は職業的な野心を超えたところで強くなっていきます。
今日から始める
開発者に自律性を与え、強いチームの一員として個としても成長できる機会を提供することは、自社が従業員エクスペリエンスを最優先している何よりの証です。メンバーが「価値を認められ、信頼されている」と感じる環境こそが、最高の人材を惹きつけ、引き留めるための鍵となります。競争力ある給与は、優れた人材を組織に呼び込むフックにはなり得ますが、彼らが最高の仕事をできるよう後押しするカルチャーこそが、彼らをその場に留まらせる本当の報酬なのです。